部門業績賞: 尾田 十八(金沢大学)

この度第13回設計工学・システム部門講演会において,部門業績賞を授与されました.まことに身に余る光栄で,ここに関連の方々に厚く御礼申し上げます.
顧みますと,私が設計に対して強く意識を持つようになったのは,今は亡き東京大学精密機械工学科の宮本博先生の所へ学位論文の指導を受けに度々訪問していた30数年前の頃だったと思います.学位論文の審査も終了し,宮本先生がその居室で副査の先生方も交えて私のために祝宴をしていただきました.その折,一般論としてのこれからの工学研究の方向の話が出ました.その議論は,当時の私にはきわめて新鮮であり,今もその内容を記憶してますが,「工学として最も大切な分野は,物造りの方法論を確立することだと思う.つまり設計論の確立である.しかし,これがまだ最も未開拓で,おもしろい分野でもある」というような主旨の話をお1人の先生がなされました.実はその方が当時若手の助教授の吉川弘之先生(元東大総長,現産総研理事長)だったのです.
この話はその後の私の研究方向に大きく影響を与えました.それは基本とする専門分野が材料力学でありながら,常に物造り法としての設計との関連性を意識しつづけた事です.それで昭和50年頃からは構造・材料の最適設計法の確立等を主研究テーマとしました.この分野は当時のコンピュータ技術の長足の進歩,特にFEM等,解析手法の進歩と共に研究者も増え,大いに発展し今日に至っております.ただ設計といっても人工物を造ること自身が,我々に益をもたらすと同時に,とりまく自然,生態環境に幾つもの害も与えることも明らかになって来ています.したがってこれからはいかに自然・生態系に調和した物造りを行うか,つまり Sustainable development を可能とする設計の方法論の確立が工学の最重要課題であろうと思われます.このような意味から,現在生物に学ぶ物造り法としての「バイオニック・デザイン(Bionic design)」の研究を進めていますが,すでに60才を超え,日暮れてなお道遠しの感があります.若い当部門の方々のこの分野への関心と活動を御期待申し上げると共に,当部門の益々の発展を祈って,業績賞受賞のお礼の言葉とさせていただきます.

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